サニーデイ
また冷たい雨が降った。新宿のタワレコへ行く。
サニーデイ・サービスのインストアライブ。
リハーサル。「24時のブルース」を演る。
店内がアラサー文系男女で埋まってく。
一時間後、曽我部と田中の二人が出てくる。
- あじさい
- 雨の土曜日
- 街に出ようよ
- 水色の世界
- スロウライダー
- ふたつのハート
- 若者たち
11年ぶりのサニーデイ・サービス。
結局、晴茂くんは来なかった。
ありがとう
夕暮れのコンビニエンスストア。
レジの前で一人の小男が戸惑っている。
年の頃は60代前半くらいに見える。
「あれ?困ったな」などとつぶやいてる。
発泡酒とキムチ、合わせて394円。
男は小銭入れを逆さにして硬貨をすべて出す。
100円玉と50円玉が2枚づつ、10円玉と1円玉が8枚づつ。
合わせて388円しか出てこなかった。
学生風のアルバイト店員は、何も言わず見ている。
小男の後ろに並んだ20代の青年。
状況を察して10円玉を取り出し、レジの台に置く。
「良かったらお貸ししますよ。10円」
男は少し驚いて後ろを振り返る。「え。良いのかい?」
「いや、悪いね。良いのかい?悪いな」
「どうぞ、使って下さい」爽やかな笑顔を見せる青年。
「そうかい。悪いね。じゃあ、これで」
店員は素っ気なく「では、394円頂きます」とレジを打つ。
無事に会計を済ませた男は、「すまんね」と言ってはにかんだ。
青年は「いいえ」と軽やかな声で返す。
男は発泡酒とキムチの入った袋を手に店を出ていった。
袋から発泡酒を出し、足早に駐車場を横切る姿が見える。
青年はおにぎりとお茶と千円札をレジ台に置く。
店員がつり銭を渡し、袋に商品を入れる。
その間に青年の顔から笑顔は消えていた。
小男は恥ずかしそうに喜んでいた。
しかし、「ありがとう」とは言わなかった。
それが青年の心に引っかかったのだ。
悪いことをしたのではないかと思えてきたのだ。
店員が袋を渡しながらぶっきらぼうに言う。
「ありがとうございましたー」