公園

mineo19792006-06-17


本日の妄想小説をお楽しみ下さい。

梅雨に入って明日で丁度一ヶ月だとフジテレビのお天気キャスターが告げている。
都知事の息子だ。


彼女とはもう一ヶ月以上も会っていない。
だから、寝っ転がってぼんやりとテレビを見ているときなんか、彼女の笑顔を思い出してしまう。



彼女と会うのは決まって日曜日の公園だった。
ほとんど毎日、通り抜けている細長くて広い公園。
三ヶ月前のある日曜日、ベンチの隣に乗ってきた彼女の犬(ジュリー)に食べかけのメンチカツをあげたのが、彼女と知り合うキッカケだった。


その日以来三回、散歩中の彼女と公園で会っては一時間程度の世間話をした。
散歩道で僕を見つけるといつも、ジュリーは小さく吠えて尻尾を振り、彼女は気持ちのよさそうな笑顔を投げかけてくれた。


天気が良くて、ジュリーの調子がいいときには、一駅離れたこの公園まで足を延ばして来るのだという。
平日の散歩を担当している彼女のお母さんと土曜日担当のお父さんは、ここまでは来ないらしい。


ジュリーは美しい黒毛の青年犬で、コリーの血がクウォーターで入ってるらしく、整った目鼻立ちをしている。
彼女は決まってジュリーの芸を見せてくれる。お手やお替り、お預けやボール拾い。
上手くできたりできなかったり。
僕はそのやりとりを見ているのが好きだった。
よくできたときにはメンチカツや菓子パンをちぎってあげた。


最後に会ったときに、僕らはメールアドレスの交換をした。
彼女が所属している室内楽サークルの定期演奏会が、五日後にあるのだという。
彼女はチェロを演奏し、ピアノと二人で合わせるらしい。
「ホールの詳しい地図とか、送りますね。説明しづらい場所にあるから」
「ありがとう。仕事が早く終わったら聴きに行くよ」



そして次の金曜日、演奏会の日。朝から雨が降っていた。
仕事は早く終わり、同僚から飲みに誘われることもなかったけど、僕は演奏会には行かなかった。
混み合う帰りの電車の中で
「仕事が終わりそうにないので、今日は行けなそうです。ごめんなさい」
とメールを送った。窓ガラスはひどく曇っていた。



駅前の牛丼屋で夕飯を食べながら、夜の公園を歩きながら、演奏会に行かなかった理由を考えた。



天気の良い日曜日の公園で、彼女とジュリーに会うことが完璧すぎたんだ。
そう思うと、そんな感じがするし、少し違うような気もした。



部屋に帰って、風呂に入り、寝っ転がってテレビを見ていると、彼女から少し長めのメールがきた。
「おつかれさまです。お仕事、大変ですね。もう終わりましたか?演奏会はさっき終わりました。これから打ち上げです。今回は結構上手く弾けたし、私は満足の内容でした。だから、聴いてもらえなくてちょっと残念です。また今度、演奏会があるときはお知らせしますね。それでは、また!!」


僕は少し時間を置いてから
「おつかれさま。僕もさっき仕事が終わりました。良い演奏ができてよかったね。次回、また教えてください。」
と返した。



その金曜日から、彼女とはメールもしていない。
日曜日は版を押したように雨マークだし、メンチカツも食べていない。


でも、それでいいと思っている。
もうじき梅雨が明けて、晴れた日曜日は必ず来るのだから。